認定NPO Living in Peace代表の慎泰俊が今会いたい人と、これからの働き方・子どもの未来について語ります
第3回
2013年11月23日(土)
乙武 洋匡さん × Living in Peace 代表 慎 泰俊
【前編】僕が教師になった理由、そして教師を辞めた理由
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慎泰俊がいま一番お話ししたい人をお招きする対談企画『働きながら、社会をかえる。』の第三回には、乙武洋匡をお迎えしました。小学校の教諭を経て、現在は東京都の教育委員を務めたり、教育の関する発信をされている乙武さん。最近は、「自己肯定感」をテーマにした著書「自分を愛する力」を発表されました。

児童養護施設の子どもの支援に取り組む慎から、乙武さんが教育者として考えておられる「子どもの教育」のこと、2人のお子さんの父親として実践しておられる「子育て」のことまで、たっぷりと伺いました。子どもだけでなく、人への「寛容さ」「優しさ」「誠実さ」に溢れる乙武さんのお話を、ぜひご一読ください。
(企画・構成:Living in Peace 教育プロジェクト)
愛情のパイプの詰まりを取り除くことで、愛情が伝わるようになる
乙武 洋匡さん
1976年、東京都生まれ。
大学卒業後はスポーツライターとして活動。2005年4月から、東京都新宿区教育委員会の非常勤職員「子どもの生き方パートナー」として教育活動を開始。2007年2月に小学校教諭2種免許状を取得、同年4月から3年間、杉並区立杉並第四小学校教諭として勤務。2013年2月に東京都教育委員に就任。主な著書に、『五体不満足』『だいじょうぶ3組』(ともに講談社)など。2児の父。

慎  :乙武さん、本日はよろしくお願いします。 乙武さん:よろしくお願いします。
(以下、敬称略) 慎  :乙武さんには、今回、教育者としてのお立場から色々お話を伺いたいと思っています。ご存知の読者も多いと思いますが、乙武さんは2007年4月から2010年3月まで杉並区立杉並第四小学校で教諭を務め、3・4年生を担任されていました。その現場のお話を聞きたいと思いまして。 乙武 :了解しました! 慎  :私がNPOでいろんな子に接していてすごく大事だと思うのは自己肯定感です。というのも、どれだけ努力できるかということに自己肯定感がすごく影響していると日々感じるからです。どちらかというと両親のおかげで僕は、大変なことがあっても努力できる方なんですね、だけど、そういうのがすごく難しい人もいるということに気づきました。乙武さんは、先生をされていたときに、そのような子どもと接される機会はありましたか。 乙武 :小学校で3年間教員をしてみて、根源的なレベルで決定的に愛情が不足しているな、というお子さんは僕のクラスにはいなかったけど、学校全体を見回すと、やっぱりいましたね。そういう子は大きな問題を抱えてしまっていて、学校でも急に情緒不安定になって、周囲に迷惑をかけてしまったりという場面もありました。 慎  :実際そういったお子さんに、どんなことができるでしょうか。

乙武 :子どもへの愛情が決定的に不足しているときには、その親御さんが本当に大変な状況で、なかなか子どもに目を向けられないという背景があったりします。そういう場合、親の代わりにはなれないけれど、少しでもそれを埋めるべく、他の誰かがしっかりと愛情を注ぐとか、親が抱える問題を解決するべく手助けをする、などの方法があると思います。 慎  :なるほど。 乙武 :だから、家庭はすごく大事なんです。もうひとつ、家庭での日々の親の態度がすごく大切だと感じた場面があります。僕が担任するクラスで個人面談や保護者会をすると、ほとんどの保護者が判を押したように、「先生、うちの子はね...」と、自分のお子さんのダメ出しから始まるんですね。担任である僕の目から見て、この子はとくに注意すべき点がないかなと思うお子さんでも、まるで重箱の隅をつつくように「いやいや先生、うちの子はこんなダメなところがあるんですよ」って。やっぱり親は、子どもに完璧を求めてしまうのかもしれません。
慎  :それは愛情があるからこそですよね。
乙武 :そう、もちろん、愛してるからこそなんだけれど、それが故に足りてないところ、未熟なところが目について、とにかくそこだけを指摘してしまいがちなんですね。愛してるからこその、お小言、ダメ出し、っていうのは・・・。
慎  :もったいない。 乙武 :はい。つまり、愛はすでにあるんです。なのに、そのパイプが詰まっているせいで、それがうまく伝わっていないのはすごくもったいないことだと思うんです。親が子に愛情を注げないという問題なら話は別だし、その解決には大きな労力が必要だけど、こちらはほんのちょっとした心がけや、言葉の選び方などで、案外簡単に変えられると思うんです。だからこそ、僕はまず、このパイプの詰まりを取ることに注力したんです。 慎  :完璧を求めてしまうのには、高すぎる期待があるんでしょうね。それでも乙武さんの近著『自分を愛する力』(講談社現代新書)では、「生きているだけでも十分に価値がある」という気持ちの持ちようを伝えておられますね。 乙武 :僕の両親は、手足がなく生まれてきた僕を見て、「一生寝たきりだろう」と覚悟したそうなんです。だから、寝返りを打った、自分で歩いた、字を書いた――そのすべてがうれしかったそうなんです。結果、ダメ出しされることよりも、プラスの評価を与えられることのほうが圧倒的に多かった。それが、僕の自己肯定感を育んでくれたと思うんです。 慎  :なるほど。 乙武 :多くの親は、わが子が生まれてくるときに、「五体満足であってさえくれれば」と願います。ほとんどの子はそうした親の願いを満たして生まれてくるのに、親はついつい「あれもこれも」と追加で期待をしてしまう。毎日、元気でいてくれることだけで、十分ありがたいのにね。
慎 泰俊 Taejun Shin
1981年東京生まれ。
朝鮮大学政治経済学部法律学科卒、早稲田大学ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在はPEファンドの投資プロフェッショナルとして様々な事業の分析・投資実行・投資先の経営に関与。
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