認定NPO Living in Peace代表の慎泰俊が今会いたい人と、これからの働き方・子どもの未来について語ります
第6回
2014年9月9日(火)
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表 土井香苗さん × Living in Peace 代表 慎泰俊
【後編】「やれることしかやらない」は「なにもやらない」と同じ
そんな「不正義がまかり通っている」ことが腹立たしい
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慎泰俊がいまお話ししたい人をお招きする対談企画『働きながら、社会を変える。』の第6回には、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下、HRW)日本代表の土井香苗さんをお迎えしました。

土井さんは、慎と長く親交があり、過去にはLiving in Peaceが支援する児童養護施設を訪問下さったり、また法律家のお立場からアドバイスを下さったこともあります。

HRWは、2014年5月に、『夢がもてない―日本における社会的養護下の子どもたち―』(http://www.hrw.org/node/125013)という報告書を出されました。そのなかでは日本の社会的養護の仕組みや手続きを、人権問題の観点から検証されています。今回は土井さんに、その報告書の内容や作成プロセスでのご苦労などを伺いました。ぜひご一読ください。
(企画・構成:Living in Peace 教育プロジェクト)
人権活動家と官僚の間に存在する大きな差
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
土井香苗さん
1975年、神奈川県出身。東京大学法学部卒業後、2000年から弁護士として活動。
2006年にはニューヨーク大学ロースクールで法学修士号を獲得。
現在は国際NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチの日本代表をつとめている。
慎 
では、官僚の人にも働きかけたりしているのですか。
土井さん(以下敬称略):
レポート作成中、様々意見を交換しました。彼らは「現実主義者」じゃないですか。表面的には私たちと同じことを言っているんですが、全然違う将来像を描いていたりする。例えば、「里親優先の原則」を双方で合意できたなら、それを真摯に実行しようとするかぎり、「8割とか大部分の子どもが里親に行けますね」、というところでも合意できるはずなんですが、しかし彼らの話しを聞いていると、「15年後に3分の1しか里親に行きません」というような話になってる。そのように、同じ言葉をしゃべっていても、描いている現実が違うということはあります。
慎 
漸進主義というか、「物事は少しずつ変わっていく」という考え方なんですかね。
土井
彼らは基本的に、非常なリアリストなので、現実的にできることしかできるとは言いませんね。私は人権活動家なので、「『優先』を現実に落とし込むとこうなりますよね」となりますが、彼らは「『優先』はありますが、現実はこうだから、現実からたたき上げるとこうですよね」となる。そこに差があるのだと思います。
慎 
はい。
土井
私からすると、彼らは現実のみから説き起こしている。でも彼らからすると、私は論理のみから説き起こしていると感じるのでしょう。もちろん私も論理がすべて迅速に現実になるとは思っていないので、これらの両者の中間地点のどこかにまずは落ち着いていくのだと思います。でも今はまだ「中間」まではいっていなくて、「総論賛成、各論大反対」という感じですから、まだまだ開きは激しいですね。
慎 
そうですか…。
土井
あと、私が提言した細かいことを彼らが全然考えていないということもあります。例えば、東京だと平成24年度、0歳児を2人しか里子に出していなくて、あとの218人を乳児院に入れているんです。その理由を聞くと、「少なくとも6か月間、障害がないかをチェックしているのが通常では」と答えるので、私が「そんなのやらなくていいのでは」みたいなことを言うと、「えぇっ!」みたい反応が返ってきたり。他にも、子どもを里親に出すときは、実親の同意が取れなくても家庭裁判所に児童福祉法28条請求をして了解が得られれば法律的に可能になるのですが、私が「それをやればいいじゃないですか」と言うと、「確かにやろうと思えばやれますね。しかし考えたこともなかったです」みたいなことを言うとか、ね。
慎 
うーん、なるほど。
慎 泰俊 Taejun Shin
1981年東京生まれ。
朝鮮大学政治経済学部法律学科卒、早稲田大学ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在はPEファンドの投資プロフェッショナルとして様々な事業の分析・投資実行・投資先の経営に関与。
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