認定NPO Living in Peace代表の慎泰俊が今会いたい人と、これからの働き方・子どもの未来について語ります
第6回
2014年8月23日(土)
ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表 土井香苗さん × Living in Peace 代表 慎泰俊
【前編】日本の社会的養護の仕組みは、国際的には「人権問題」
「すべての子どもが夢を持てる日本」へ
このエントリーをはてなブックマークに追加
LINEで送る

民主的な国家でも、人権侵害は存在する
慎 
HRWではいろいろなタイプのレポートを出されていると思うのですが、独裁国家へのアプローチと、民主的なプロセスが存在している政府へのアプローチは異なるのでしょうか?
土井
HRWのレポートは大きく分けると三類型あって、それらは「独裁者類型」、「戦争類型」、そして「マイノリティー類型」と私が勝手に名付けているものなんです。マイノリティーの人権というのは、独裁のなかで侵害されていることももちろんありますが、民主国家のなかでも侵害されています。その意味で、今回のレポートは典型的なマイノリティーレポートだと思っています。民主主義のシステムのなかでは、放っておくとマイノリティーの権利は実現しない、だから人権基準(法律)というものがあって、多数決でも奪えないのが最低限の「人権」です。しかし、その基準も有名無実化することが多い。

土井香苗さん
慎 
なるほど。
土井
しかし、私達のいる日本は民主主義社会であり法治国家なので、マイノリティーの権利を勝ち取るアプローチはあります。まずひとつは、民主主義アプローチ。被害を受ける人がマイノリティーでも、マジョリティーに共感さえ広がれば、それは多数決で勝つことができます。そこでメディアを使い、市民社会のなかで横連携を増やし、最後はそれを背景に政治家に働きかけて、「これは多くの人が関心をもっているイシュー(社会課題)です」と持っていくのです。そしてもうひとつは、司法アプローチ。つまり、法律を破っていれば、たとえそこにマジョリティーの共感がなくても裁判所に持ちこんで勝つ、というやり方です。
慎 
そうですね。
土井
ですから場合によっては司法アプローチもありえますが、今回の問題では、やはり主となるのは民主主義的アプローチで、マイノリティーの人権のことだけどマジョリティーが共感を持っているイシューになんとかしたい、と思っています。それはまだ遠い道のりですが、慎さんが拡げておいてくれた道でもありますので、それをさらに拡げるべく私も頑張るぞ、とやり始めたところです。
慎 
土井さんが力を貸して下さることが、何よりも心強いです。
土井
いやもうこちらこそ、慎さんがやってくれていたお陰という気持ちで。私が行く先々で「あ、あの慎さんがやっていることね」って言われることが多く、本当に有り難いなと思っています。
慎 
有り難うございます。それは嬉しいことですね。ところでレポートの中では里親が増えない理由に関しても、いろいろと述べられていますが、改めて里親に関する問題を説明していただけないでしょうか。
土井
分かりました。まずですが、養子縁組も里親も「足りてなくはない」のです。登録された里親の中でマッチングされているのが半数以下で、「十年待っても里子が来ない」という人もたくさんいますので、単純に「里親が足りていない」というのはデータに反します。でも、その上でもっと里親の登録を増やす方法はもちろんあって、この提言の中でも「多様なバックグラウンドを持った資質ある候補者に、里親登録申請を促す全国的な広報活動を効果的に実施すること」と書いています。それは例えば、ACでやるとか、インターネットを利用するとか、いくらも方法はあると思います。ただ今の時点では、児童相談所は、里親登録をした人たちにしっかり里子をマッチングしていないので、里親登録ばかり増やしたら、「登録したのに子どもが来ない」という不満の声が高まるだけとなってしまう可能性があるわけですから、残念ですがそのようなキャンペーンには慎重にならざるをえません。
慎 泰俊 Taejun Shin
1981年東京生まれ。
朝鮮大学政治経済学部法律学科卒、早稲田大学ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在はPEファンドの投資プロフェッショナルとして様々な事業の分析・投資実行・投資先の経営に関与。

記事一覧