認定NPO Living in Peace代表の慎泰俊が今会いたい人と、これからの働き方・子どもの未来について語ります
第3回
2013年12月14日(土)
乙武 洋匡さん × Living in Peace 代表 慎 泰俊
【後編】愛情の基礎は「みんなちがって、みんないい」 自分を愛せる人が増えればもっと生きやすい社会になる
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「結果」ではなく「プロセス」を評価する
乙武 :朝起きたとき、夜寝る前に「今日も大好きだよ」とこの短い腕でハグをしてます。あとは子どものチャレンジに対して、結果だけで判断しないことを心がけています。これは本当に難しいことですが。
慎  :例えばどういうことでしょう。
乙武 :例えば、頼んでもないのに子どもが手伝いをしようと思って食器をキッチンまで運ぼうとした。落とすことなくちゃんと運べたら、きっとお母さんは「わあ、ありがとう!」って感激すると思うんです。だけど、もし途中で転んで割ってしまったら「何やってるの!」となると思う。うまくいった場合には、「褒められてうれしい」――この場合は問題ないんです。ところが、自発的な思いで頑張ったのに途中で転んでしまった、それに叱りの言葉を浴びせられたら、「せっかく頑張ったけど、ちゃんとできなければ怒られるんだ。だったらもうやめちゃおう。言われたことだけやっておけば怒られなくて済むんだ」という思考に陥りますよね。

対談中の乙武さん

慎  :そうですね。 乙武 :お母さんが家事で忙しいなか、子どもが仕事を増やせば怒りたくなるのはわかるのですが、そこをぐっとこらえて、「ありがとう、お母さんうれしいよ。でも、こうやって割っちゃうこともあるから、次からはいっぺんに3枚じゃなくて1枚ずつにしてみようか」というような言葉をかけてあげられれば、子どもはその失敗も前向きに受け止めて、「次もう1回頑張ってみよう」という気持ちに繋がると思うんです。 慎  :そうですね。 乙武 :本当は失敗したって成功したって親は子どもを愛しているんだけど、子どもからしたら「結果が出ないと親には愛されない」と誤解してしまうと思うんですよね。だから、僕の家庭ではなるべく結果だけで判断せずに、頑張った姿勢をきちんと評価することを心がけています。

慎  :自分が親だったら、普段の生活でどこまでできるか、自信ないですね(笑)。でも、プロセスが大切だというお話しは本当にそのとおりだと思っています。結果がうまくいくかは所詮確率論です。だから、ほめるとか、動機づけるとかは「結果」では絶対にだめで、「プロセス」であるべきだと思うんです。頑張れば結果が出るとは限らないけれど、それを通じてその子がいろんな可能性に接することができる、そう考えると、プロセスってすごく大切なんだなと思います。スポーツ選手の場合は、みなさんプロセスを大事にされますよね。結果はいろんな要素に左右されるものだけど、プロセスは自分がコントロールできる。
乙武 :日本人捕手として初めてメジャーリーグに行った城島健司選手がとても面白いことを言っていて、「どうしても結果を出さなくちゃいけない場面で、ジョーはどうしてるの」って聞いたら、「神頼み!」って答えたんですよ。「うそでしょ!?」と思って、もう少しくわしく聞いてみたら、「俺は、これ以上は無理だというくらい完璧な準備を常にしてるつもりだ。それでも、結果が出るか出ないかは分からないからね。」って。
慎  :人事を尽くして天命を待つってことですね。
乙武 :そうそう。
慎  :人事を尽くせるようになることが、子どもの強さという意味では一番大切ではないかと僕は思います。
慎 泰俊 Taejun Shin
1981年東京生まれ。
朝鮮大学政治経済学部法律学科卒、早稲田大学ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在はPEファンドの投資プロフェッショナルとして様々な事業の分析・投資実行・投資先の経営に関与。
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