認定NPO Living in Peace代表の慎泰俊が今会いたい人と、これからの働き方・子どもの未来について語ります
第3回
2013年12月14日(土)
乙武 洋匡さん × Living in Peace 代表 慎 泰俊
【後編】愛情の基礎は「みんなちがって、みんないい」 自分を愛せる人が増えればもっと生きやすい社会になる
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ツイッターで「殺すぞ」と言われたときの対処法
慎  :さて、ここからは、乙武さんの情報発信のお考えについて伺っていきたいと思います。
私は、自分の目の前にいる人、もしくは関わりを持てる人に、メッセージを出していくことをすごく重要だと思っていますが、その一方、構造的な問題もあると思っています。ひとりがひとりの人間に対して何か大きな影響を及ぼすことは素晴らしいことだし、それだけで人は生きる価値があると思いますけど、しかし、目の前の10人、100人ではたぶん足りない。こういった課題を解決するために、何が必要でしょうか。
乙武 :それがまさに僕が小学校の教員を務めた後、今、東京都の教育委員をしている理由です。3年間の教員生活で、特に自分が担任した23人の子どもたち、そしてその保護者の皆さんに対して、自分がやりたい教育に向けて尽力できたという実感はあります。けれど、まさに今慎さんが仰ったように、「でも、目の前の23人だけでは足りない」という思いが拭いきれなかった。いったいこれで日本の教育を変えていけるのか、今度は異なる立場から違う活動をしていく必要性があるんじゃないか、と。それで、教育委員というお話をいただいたとき、お引き受けをしようと思ったんです。もちろん、行政は行政でジレンマを感じる部分はありますけどね。
慎  :僕は今、日経ビジネスオンラインに連載を持っているのですが、そこで何かしら意見を発信すると炎上することが多いんです。行動しようとする人に対しては、いろんな人たちがいろんなことを言います。かならず波風が立つというか。でも、いつも乙武さんのツイッターでの受け答えを拝見していると、そこがまったく問題になっていなくて、いつも驚きます。

対談中の慎泰俊

乙武 :いやいや、僕もよく炎上してますけどね(笑)。印象に残っているのは、2年ぐらい前かな、ツイッターで「殺すぞ」って言ってきた人がいました。普通だったらビビったり、逆にキレたり、スルーしたりするのかもしれないけれど、俺はいつもの調子で「やめてー!」って返したんですよね。そうしたら彼は、自分に返信が来たことにまずびっくりしたみたいで、少しだけ態度を軟化させて返してきたんです。それにまた僕が答えたら、ますます態度が軟化してきたんです。聞いてみると、彼はずっとニートだった青年で、「俺は馬鹿にされて、いじめられてここまで来た」と言っていました。「周りは誰も認めてくれていない、どうせお前らみんな俺のこと馬鹿にしてんだろ」と自暴自棄になっていたんです。僕はそうした彼の気持ちに寄り添いながら少しずつ言葉をかけていったら、すごく前向きになってくれて、最後には「弟子にしてくれ」って(笑)。何日後かには「履歴書を書いて、面接を受けてきました」と言ってくれたんです。これは、すごくうれしかったエピソードですね。

慎  :なんというか、乙武さんの切り返しには愛を感じるんです。「何かやると、何か言われる」ということは、規模が大きくなるほどより顕著になると思いますが、乙武さんの場合はそれが気にならないのでしょうか、あるいは、その話のように受け止めながら乗り越えていらっしゃるのでしょうか。
乙武 :これもさっきと同じ話で、僕はついつい、そうしたひどい言葉を投げかけてくる相手の「裏側にあるもの」に目を向けてしまうんですね。この人もつらいんじゃないか、なにか抱えているものがあるんじゃないか、って。もちろん僕も人間だから、きつい言葉を日々言われるのは正直しんどいし、いい気持ちはしません。でも、それを防ぐには、自分が表に出ないという選択しかない。でも僕は、やはり社会に対して、きちっと発言し、活動しなければならないことがあると思っているんです。批判されないようにすることと、発言したいこと、活動したいことを天秤にかけたとき、僕はやっぱり後者のほうが大事だと思うから、あれこれ言われることはある程度受け入れなきゃダメだと考えています。
慎  :やっぱりみなさん悩まれることなんですね。
慎 泰俊 Taejun Shin
1981年東京生まれ。
朝鮮大学政治経済学部法律学科卒、早稲田大学ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在はPEファンドの投資プロフェッショナルとして様々な事業の分析・投資実行・投資先の経営に関与。
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